さくらをしらない

 舞い降りるうすべにいろのはなびらの名前は「さくら」というのを、初めて教えてもらった。
 通りがかった色素の薄い人に。
 ライゼンはそれまで、さくらを知らなかった。
 「宇宙都市シャングリラ」に向かってライゼンが投げ出されてから早七日になるが、目に映るもの全てをライゼンは新しく感じていた。着ているジャケットを放り投げて駆けだしてしまいそうになるこの陽気をかつて人は「はる」と呼んでいたらしい。一年の間で人がもっとも喜ぶうるわしい季節なのだと。
 だから「宇宙都市シャングリラ」においても人はいたるところで空を見上げる。正確には、青と薄紅のコントラストで目を楽しませている。
 ライゼンも人が集まる「こうえん」というところで、両手を伸ばして袂を広げ、空を自身の色で飾るもしくは引き立てている「さくら」を見上げていた。
 惜しげもなくはなびらは落ちて、ライゼンの黒い大きな手袋に収められる。潰すのには惜しく、かといって捨てることも勿体なく、ライゼンは手の中に落ちた「さくら」のはなびらを持て余していた。
 渡したいと思える誰かがいたらよかった。
 しかし、まだ「宇宙都市シャングリラ」において来訪者であるライゼンには関わりを持っていると言える相手がいない。
 寂しいことだとも気付かないまま、ライゼンは手の中に「さくら」を抱き、目の中に「さくら」を宿す。


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