登場キャラクター
成瀬:ライゼン
尾津杏奈さん:アァトゥフさん
「月光祭」によって一層の賑わいを見せる「宇宙都市シャングリラ」を歩き回りながら、捜す。
ライゼンは捜す。先月の花火の夜に声をかけてくれた、褐色の肌の女性の後姿を見かけることはないかと、居住区の中にある商業地区「エンポーリウム」を歩いて回っていた。
エンポーリウムは商業地区と呼ばれるだけあって、普段から活気のある通りだ。さらにいまは祭の最中であるためか、普段は見かけない露店まで並んでいる。ライゼンもついつい、関係者や天使型が集う玩具屋、さらに亡き天使型の遺品が飾られた一角などに立ち止まってしまう。その度に、本来の目的を思い出してブルーグリーンの頭を振りながら一歩を踏み出していった。
そして、ようやく見つけることができた。
「あ、アートーフさん!?」
聞き慣れない名前だから、一度教えてもらっただけでは正しい発音を覚えられなかった。それでも、ライゼンが捜していたアァトゥフはかけられた声に気付き、足を止めて、ゆっくりとライゼンに近づいてくる。
「私の名前はアァトゥフよ」
アァトゥフは蔑意も怒気も見せることなく、ライゼンの言い間違いを柔らかく訂正した。
ライゼンは首を傾げながら言い直した。
「あ、アァトゥーフー」
「惜しいわね。アァトゥフ」
「あ、とぅー、アァトゥフさん!」
「その通り」
ようやく正しい発音が出来るようになって、ライゼンはほっとした。息を吐く。心が余裕を取り戻すと、本来の目的も思い出すというもので、ライゼンは服のポケットを探る。ポケットの中に入れていた、桃色の袋をアァトゥフに向かって差し出した。
アァトゥフは微笑みを絶やさないまま、疑問の視線をライゼンに向ける。
「花火を見ていた時、俺に声をかけてくれたから。それがうれしかったから、お礼だよ」
「そう。だったら、ありがたくいただくわ。それで、これは何?」
「バタースコッチ」
本当は目上の天使型に献上するための菓子を作る集まりに参加して作ったものだが、誰に渡したって構いはしないだろう。
ライゼンはアァトゥフに喜んでもらえることをわずかながらに期待していたのだが、アァトゥフに変化は見られない。先月の花火大会の時に浮かべていた微笑のまま、ライゼンから渡されたバタースコッチを眺めている。
大人って難しい。
ライゼンは思い、一人で腕を組みそうになる。
「ライゼン。ありがとう」
「あ、うん」
急に名前を呼ばれて、弾かれるように顔を上げる。ライゼンのことを「少年」と呼ぶのではなく、名前で呼んでくれる相手は、ありがたく貴重な存在だ。
